大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松地方裁判所丸亀支部 昭和32年(わ)152号 判決

被告人 福浜裕士

主文

被告人を罰金四、〇〇〇円及び禁錮六月に処する。

右罰金を完納することができないときは二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

本裁判確定の日より三年間右禁錮刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(事実)

被告人は、

第一、自動車運転免許を受けていないのにかかわらず、昭和三二年一〇月一〇日午後三時二五分頃、丸亀市通町琴参電車停留所南側の琴参バス駐車場に置いてあつた琴参の普通乗合自動車(香二―二、二六一号)を同所より空車のまま無断運転して丸亀城正門前の同市大手前町道路に出で、同道路上を時速約一五キロの速度で西進して同市六番丁丸亀拘置支所北側の十字路に至り、もつてその間の道路において無謀操縦をなし、

第二、前記の通り自動車運転免許を受けていないのであるから、自動車運転の練習をしようと思えば、正規の自動車学校で学ぶなり、或は人、畜、建物、器物等を傷けるおそれの絶対にない広場等においてすべきであつて、道路上は絶対に運転してはならないのにかかわらず、小型自動車に比べて操縦の困難な前記バス(全長八・一米、巾二・四五米、高さ二・七五米)を単独にて運転し、学校帰りの生徒等、歩行者の往来頻繁な前記拘置支所北側十字路を左折しようとした際、運転技術未熟のためハンドルの操作を誤まり、自動車の前部が同拘置支所東側のコンクリート塀に衝突しそうになつたので、あわててハンドルを左に一杯切ると共に停車させようとしてブレーキとアクセル(加速機)を踏み違えたため同道路(巾一〇・八米)の西側より斜東方向に右自動車を急速度に進行させ、折柄丸亀城内堀に面する同道路東端で草花をつんでいた丸亀市城西小学校四年生石川幸子(一〇歳)長尾小夜子(九歳)田中睦子(一〇歳)の姿を約五米の近距離に迫つて発見急ぎハンドルを右に切つたが及ばず、自動車左側前部辺りを同人等に衝突せしめたという重大な過失により前記堀に面した道路東側の傾斜面に転落した右自動車の後車輪にて右石川幸子をひき、同人を頭蓋骨々折脳挫滅により即死させ、右長尾小夜子には全治六ヶ月以上を要する左側頭骨々折、左耳部複雑挫滅傷、左大腿骨々折、右鎖骨完全骨折等の傷害を与えた

ものである。

(証拠)(略)

(法令の適用)

被告人の前記行為中第一の事実は道路交通取締法第七条第一項第二項第二号第九条第一項第二八条第一号に該当するので所定刑中罰金刑を選択し、第二の事実は刑法第二一一条後段罰金等臨時措置法第二条第三条第一号に該当するので所定刑中禁錮刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるので、第四八条第一項により所定罰金額、刑期の各範囲内において罰金四、〇〇〇円及び禁錮六月に処し、同法第一八条により右罰金を完納することができないときは二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、禁錮刑については被告人にはこれまで前科はなく、琴平参宮電鉄株式会社に入社以来の勤務振りは真面目であつた点、本件事故発生後、死者の遺家族に対する弔慰、負傷者本人及びその家族に対する見舞等に誠意のみるべきものがある点、被害者の家族も被告人の誠意を認めて本件につき寛大な処置を望んでいる点、本件事故のため被告人は前記琴参電鉄株式会社を懲戒免職になつている点等を考慮し、刑法第二五条により本裁判確定の日より三年間右刑の執行を猶予するを相当と認め訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項により全部被告人に負担させることとする。

よつて主文の通り判決する。

(裁判官 中村三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例